渋谷員子

渋谷 員子(しぶや かずこ、1965年9月4日 - )は、日本のCGデザイナー。ドットクリエイター。スクウェア(現スクウェア・エニックス)所属。ファミリーコンピュータ時代から多くのドット絵を描いており、「ドット絵の匠」と呼ばれる[1][2][3]

経歴

学生時代は『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』に憧れ美術部に所属し、一時期はアニメーターを目指して、国際アニメーション研究所に入り、現場でアルバイトをしていたが、次第にアニメ業界以外を志すようになった[2][4][5]。アニメ業界以外の求人を探していたところ、電友社(翌1986年よりスクウェア)の求人募集を見て同社に入社した[2][4]

渋谷はゲームをしたことがほとんどなく[2]、面接時に「ドット絵、描ける?」と聞かれたものの、当時は意味がわからず「描けると思います」と答えたが、2日後には入社が決まっていたという[1]。田中弘道が作成したパソコン用ゲームソフト『アルファ』で初めてデザイナーとして開発に参加し、21歳の時の『キングスナイトMSX版ではじめてドット絵を業務として行った[2]。その後『とびだせ大作戦』『水晶の龍[3]を経てファイナルファンタジーシリーズを手掛けるようになった[4]

ファイナルファンタジー』においては、操作キャラクターが歩く方向で姿が変わるようにすることや、屋根のある白い壁の家などは渋谷のアイデアが通ったものである[2]。また一部のモンスターデザインも担当している[3]。『FFIII』では、キャラクターは担当せず、モンスターや戦闘背景、ダンジョンマップなどのドットを手掛けたが、特に、ラスボスの「くらやみのくも」のアレンジで知られている[3]。「くらやみのくも」は、天野喜孝のイラストでは正面向きの全身立ち姿、マントを羽織った半裸女性のイラストだったが、そのままドットに起こした場合、中ボスのザンデとも印象が被るうえに、ラスボスとしての迫力に欠けてしまうため、大胆にも下半身を削除し、上半身だけの横向きのポージングにし、見た目も人間より化け物に近い印象に変更した。さらにプレイヤーたる子供たちへの影響を考え、原画では普通の肌色だったものを緑色に変更。原画からはかなりの改変になるが、上半身のみにしたことで、ゲーム中最大のキャラサイズになって迫力が増し、“全身緑の女性”という姿も、不気味さと強烈なインパクトを生み、まさにラスボスとして申し分のない効果を与えることとなった。また、FF3はファミコンのパッケージイラスト(青年が正面を向き双剣を交差している絵)も有名だが、それも天野氏に発注する際に使ったイメージのラフ絵は渋谷が描いている。ラフ絵では兜をかぶっているものの、人物の正中線をやや左に傾かせ、正面を向いて双剣を交差、マントをはためかせつつ片足を上げているポージングは、ラフ絵の時点で完成イラストとかなり近いものであった。渋谷はドット絵を打つ際に下書きなどは行わず、頭の中のイメージだけで作成するとしている[3]

FFIV』ではパッケージアートを、『聖剣伝説 〜ファイナルファンタジー外伝〜』では宣伝用イラストを描き、デザイナーとしてドット絵以外でも活躍の場を見せる。そのほかファイナルファンタジーのCDジャケットや社内イベントのデザイン、インタビュー、社内カフェの店内デザインなども行っている[1]。『FFV』では石井浩一の『FFIII』のジョブデザインを参考に数多くのジョブイラストを発表し、坂口博信からもチビキャラを絶賛されていた。『ロマンシング サ・ガ』ではキャラクターデザインを担当した小林智美のイラストをドット絵で表現するにあたり、繊細な色使いを残すことに注力した。渋谷のドット絵を見て、小林は「自分の色を残してくれている」ことに感激したと述べている。

FFVII』以降はゲーム業界が3Dのリアルな映像にシフトしたため、ドット絵を担当することは少なくなった。渋谷自身も「ドット絵の仕事はもうないだろうな」と思っており、様々な技術に取り組んでいる[2]。2007年には社外業務となるオンデマンドTVセットトップボックスでUIデザインを担当。クライアントへのプレゼンテーションなどにも対応できる「社交的なデザイナー」として起用された[2]。この頃には基本的にはディレクションなど裏方を担当することが多くなった[2]。2008年には『FFIV THE AFTER 月の帰還』では久々に渋谷がチビキャラをデザインした。『FF』シリーズで新たなチビキャラを書き起こすのは『FFVI』以来14年ぶりとなる。

2012年には「FINAL FANTASY TRIBUTE ~THANKS~」のジャケットデザインとしてFFVII以降のキャラクターをもドット化したことで話題を呼んだ[2][3]。以降はモバイル分野などでドット絵の需要が高まり、いくつかのドット絵の仕事も手掛けている[2]

2021年から発表されている『FFI』から『FFVI』のピクセルリマスター版では制作と監修を務め[1]、すべての主要キャラクターを制作した[6]

代表作

ゲーム以外の業績

関連書籍

  • スクウェア・エニックス 編『FF DOT. -The Pixel Art of FINAL FANTASY-』スクウェア・エニックス、2018年1月20日。ISBN 978-4757555396。  - インタビュー収録

脚注

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  1. ^ a b c d ““ドット絵の匠”が歩むクリエイターとしての35年。渋谷員子さんの情熱の源とは - MIMOSA MAGAZINE(ミモザマガジン)”. MIMOSA MAGAZINE. プルデンシャル生命保険. 2024年6月30日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l “『ファイナルファンタジー』ドット絵の匠・渋谷員子の履歴書|絵が描きたい、でも、ゲームはやらない - ぼくらの履歴書”. エン転職 (2022年12月28日). 2024年6月30日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g 小倉正也 (2013年3月16日). “「最近目指しているのは,洗練された美しいドット絵,ですね」――FF誕生以前から,アルバム「FINALFANTASYTRIBUTE~THANKS~」までを,スクウェア・エニックスのデザイナー・渋谷員子氏に振り返ってもらった”. 4Gamer.net. 2024年6月30日閲覧。
  4. ^ a b c d 『WEEKLYファミ通』993号(エンターブレイン、2007年)94頁
  5. ^ 『FF』のドット絵師 渋谷員子 ファミ熱!!ゲームの匠(ホーム社)取材・文とみさわ昭仁、2018年10月30日閲覧。
  6. ^ “ファイナルファンタジー ピクセルリマスター | SQUARE ENIX”. 2024年6月30日閲覧。
  7. ^ 渋谷員子のツイート、2017年12月17日

関連項目

外部リンク

  • スクウェア・エニックス
  • スクウェア・エニックス 渋谷員子のドットの匠 - ウェイバックマシン(2011年11月16日アーカイブ分)
  • FF誕生以前から,アルバム「FINAL FANTASY TRIBUTE ~THANKS~」までを,渋谷員子氏に振り返ってもらった 4Gamer.net、2013年3月16日
  • 渋谷員子 (@Skazuko) - X(旧Twitter)
  • 渋谷員子 (@kazuko_shibuya) - Instagram